幼生の夢

 ――ある日見た夢の話。

 小学校の教室内。みんなの視線が、床に置かれた一つの鳥の巣に集められていた。誰が、どこから持ってきたのか知らない、梱包用の紙製のネットを素材に作られた巣だ。クラスの皆が巣を取り囲み、その直ぐ側には見覚えのある女教師がしゃがみこんでいる。
 子供たちは、はじめはじっと鳥の巣を見つめていたが、やがて各々が思い思いに喋り始める。楽しそうに。ただし、どの話題も、今目の前にある巣とは一切関係のない勝手なおしゃべりだ。先生はそれに少しイライラしつつも、なんとか生徒一人一人を注意して抑える。しかし、お喋りは止めたそばからまた直ぐに始まってしまう。
 ある生徒が、注意されても構わず、あるいはお喋りにあまりに夢中で先生の言葉が聞こえないのか、いつまでも喋り続けた。すると、みんなのお喋りが、あからさまに先生に対する侮蔑が認められるような性格を帯び始め、先生がいくら声をあげようと収まりがつかなくなってしまった。
 怒りと苛立ちが頂点に達したのだろうか。先生は巣を両手で持って立ち上がると、それをゴミ箱の中へとぶち込んだ。そして、ゴミ箱の中を指さして言う。
「さあ、これで終わりです。もう帰りなさい!」
 生徒らは歓声を挙げ、教室から出ていった。
 でも、僕は帰ることが出来なかった。未だにあの巣のことが気になってしょうがなかったのだ。先生も、生徒も一人残らず出て行ってしまった後、僕は恐る恐るゴミ箱の中を覗き込んだ。中には、壊れかけた紙製ネットの巣があり、その真ん中には小指ほどの大きさのてかてか光る、赤い肉の塊のような幼鳥が震えていた。僕はそっと、それを紙製ネットごとすくい上げると、なるべく温めようと、両手で包み込んで廊下へと出て行った。
 階段にさしかかろうとする時だった。それは手の中でビチビチと暴れ始めた。変に思って手を開いてみると、そこにさっきの幼鳥は居なかった。代わりに居たものは、表面がぬらぬらとぬめった緑色をして、そのお腹は白色、目は真ん丸くギョロリとして、口をパクパクと動かす、魚とも蛙ともつかない、奇妙な生き物だった。ただし、手も足も、背びれも尾びれも無いので、見ようによっては蛭か、あるいは芋虫のようにも思えた。
 僕は悲鳴を上げると、廊下の水道へ駆け寄り手の中にいるそれを投げ捨てた。そして一目散に階段を駆け降りた。


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